Square展[30×30cmの正方形展]

2023年1月6日(金)-1月21日(土)
12:00-19:00 日曜休廊・土曜日は17:00まで

Square展は2014年から毎年開催を重ね、本展で10回目を迎えます。縦30×横30センチで壁掛けできることを条件に、46名の作家が自由な技法とテーマで新作を1点出品します。若手・ベテランの隔たりなく五十音順で横一列に並ぶ展示方法も見どころです。絵画、版画、写真、立体など様々な表現による正方形の世界をお楽しみください。

石内都の新作は、ヴィンテージのスカジャン(横須賀ジャンパー)を撮った《スカジャン 1946-50》。広島など米軍基地名が刺繍されたこのスカジャンは、半世紀以上の時を経て桐生で発見されました。終戦後、米兵の土産物として人気だったスカジャンは、繊維の街・群馬県桐生市でも盛んに生産されていたといいます。石内のデビュー作『絶唱、横須賀ストーリー』撮影地で、幼少期から青春期までを過ごした「横須賀」、出身地であり現在拠点を構える「桐生」、ライフワークとして撮影を続ける「ひろしま」がスカジャンで繋がります。

NY在住の篠原有司男は、川辺を全力疾走する姿を描いた《イーストリバーパークのジョガー》、中村宏は、自らの戦争体験をモンタージュした《空襲》、吉野辰海は空洞の犬《此処へ》を発表します。

出品作家 (46名・五十音順)
石井博康 / 石内都 / IKORI SONG / 石見香賀里 / 上里洋 / 梅木花梨 / 大和田詠美 / 小川幸一 / 小野木亜美 / カワイユミエ / 桑野進 / 小鶴幸一 / さかいようこ / 坂口寛敏 / 篠原有司男 / 相馬博 / 曽奈迪代 / 髙田慎也 / 高野向子 / 髙橋理美 / 髙橋静江 / 瀧島里美 / 田中彰 / 谷口靖 / 東郷拓巳 / 鳥飼風人 / 長峰麻貴 / 中村宏 / 西田知代 / 久門裕子 / 福田裕理 / フクダユウヂ / 藤原恭子 / 牧ゆかり / 松田洋子 / 松見知明 / 三浦健 / 森勢津美 / 矢沢自明 / 山下耕平 / 山根久美子 / 山本一樹 / 吉住暁 / 吉田公美 / 吉野辰海 / 吉山裕次郎

石内都 ISHIUCHI Miyako
《スカジャン 1946-50》
発色現像方式
30×30cm
2022年
吉野辰海 YOSHINO Tatsumi
《此処へ》
水彩、紙
30×30cm
2022年

[パノラマ]10箇所の定点でご覧いただけます
http://art-museum.main.jp/jam_live2023/g58_278/panorama/index.html

正方形と広場
平野 到 (埼玉県立近代美術館学芸員) 

 九州の現代美術の作家を長年にわたり紹介、支援してきた福岡のギャラリーとわーるの分店として、ギャラリー58は2003年に東京で開廊した。20年にわたる画廊活動のなかで、若手や中堅の作家に発表の場を提供する一方、1950年代、60年代の日本の前衛的な動向に関わったベテラン作家の新作発表や回顧などにも力を注いできた。頑固な古兵から駆け出しの美大生までややもすれば孤立しがちな作家たち(特にコロナ禍においてはそうだったであろう)が、世代や立場を越えインクルーシブに交流できる雰囲気が、この画廊には自然に醸成されていた。その柔らかな磁場に引き寄せられるように、美術愛好家、批評家、記者、編集者、学芸員らもこの画廊に集まってきた。
 こういったギャラリー58の佇まいが象徴的に表れているのが、2014年から画廊企画として毎年開催され、今回10回目を迎えるSquare展であろう。Square展は縁のある45名ほどの作家に、壁面に展示できる30×30㎝の正方形のフォーマットであることのみを条件として、自由な技法とテーマで未発表の新作1点を出品してもらう展覧会である。出品作品は主題や作家の年齢に関係なく、無階層的に五十音順で展示される。Square展においては、各作家のその年の関心事を垣間見ることができるだけなく、世代や立場が異なる作家から同時代的に発せられた個々の世界が、協和音/不協和音的に響きあうポリフォニーの総体として成立している。 

 Square展を造形的に特徴づけているものを挙げるならば、言うまでもなく正方形が形式として選択されている点である。天地左右が等しい長さになる正方形は、特別な意味を孕んだ形態として古今東西の美術表現に散見できる。伝統的な宗教絵画では曼荼羅図などが挙げられるし、モダニスムの文脈に目を転じれば、正方形自体を主題化/自己目的化したマレーヴィチ、モンドリアン、アルバースらの絵画が思い浮かぶ。その一方で、展覧会名に用いられているSquareという単語の語義は広がりを持っており、人が集う「広場」という意味にも敷衍して用いられる。 
 Squareに係るふたつの意味、すなわち正方形と広場がコンセプトの上で緊密に結びつきながら、美術作品が成立している事例も少なくない。その中で筆者がとりわけ感銘を受けたのが、イスラエルの作家、ミハ・ウルマン(1939年~)によって、ベルリンのベーベル広場に設置された作品《図書室》(1995年)である。設置といってもモニュメンタルなものではなく、地上にあるのは広場中央の地面に据え付けられた小さな正方形(1.2×1.2m)のガラス窓だけだ。日中は広場の風景や空がガラス窓に反射/反映しており、窓の向こう側の世界、即ち地下空間はほとんど見えない。しかし夜になり地下空間に照明が灯ると、ガラス窓の向こう側に空っぽの白い書棚を設えた図書室が現われるのである。
 この作品は、まさにこの広場で書籍2万冊が見せしめとして焼却された、ナチスによる1933年の焚書事件に因んで制作されたものである。広場とは本来、誰もが分け隔てなく往来し集うことができる場所でありながら、イデオロギー的な不和が起きると政治的に利用されやすい危険な場所にも変貌する。ウルマンはたった一枚の正方形のガラス窓によって、ナチズムという過去の暗い記憶、歴史から抹殺されたもの/人々たちへの弔い、そしてガラス窓が反映する現実の広場/世界のあるべき姿について、倫理的な深部から問いかけるのである。
 ウルマンのこの作品を思い浮かべながら、Square展に展示される正方形の個々の作品が映し出すもの、そして広場としてのSquare展に作品が集うことの意義について、私は改めて考えてみたくなった。


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