画廊からの発言 
新世代への視点 2022

荒瀬哲也

ARASE Tetsuya
2022年7月25日(月)−8月6日(土) ※7/31(日)休廊

主催: 東京現代美術画廊会議  
参加画廊: 藍画廊 / ギャラリーQ / ギャラリー58 / ギャラリーなつか / ギャラリイK / ギャルリー東京ユマニテ / コバヤシ画廊

「新世代への視点 2022」は、7画廊の共同開催による、各画廊が推薦する40歳以下の作家の個展を、各会場で開催する展覧会です。
1993年に始まり、今回で23回目を迎えます。

《Just Now / Invisible / Inaudible / Reverberation》
ヴィデオ・インスタレーション
2022年

「未来をまねく遅延」 川浪千鶴 (インディペンデント・キュレーター)
荒瀬哲也さんは、鑑賞者の動きに反応して撮影されたライブ映像を「遅延」して投影する仕組みと、映像が移ろい重なり合う空間の美しさにこだわり続けている。
事前に撮影した映像を用いることはない。また、現場で生成された映像を記録することも一切ない。つまり、会場を訪う人は、自分の記憶にしか残らない、自分だけの一度限りの映像インスタレーションを体験することになる。不特定の人々を対象にした参加型だが、共有は予め不可能なワークショップということもできるかもしれない。
2021年にart space tetra(福岡市)で行われた個展「Tracking」では、6台のカメラが人を追跡し、数秒ほど遅延した映像を10台のプロジェクターが360度投影していた。
誰もいない空間に足を踏み入れた私は、あっという間に落ち着きなくうろつき回る大勢の、できればあまり見たくない客観視された自分に取り囲まれ、狼狽えたことを覚えている。数秒前に撮影された映像とプロジェクターの光源が作るリアルな影、そして生身の体を含む三様の私は、少し前の過去と直近の過去、そして現在という時間にそれぞれ重なる。それらが巧みに、時に巧まず組み合わされ、入れ子状に投影されるにつれて、映像、実像、虚像の区別すらも曖昧になっていく。
個展のタイトルどおりに自分の痕跡をなぞりながら、ふとヒヤリとした奇妙な思いが芽生えてきた。時制として過去と現在しかないと思っていたが、もしかしたら、ここにはまだ見ぬ「未来」が混じっているかもしれない、未来が現在、そして過去に流れ込み影響を及ぼしているのかもしれない、と。立ち上る陽炎のように一瞬一瞬の変化が見飽きないインスタレーション空間に、過去と現在と未来の自分が同時に存在し、同じ映像を見て同じ体験をしている。シュールな妄想だが、思いがけない角度から、変わらない日常とそのかけがえのなさについて示唆を受けた気持ちになった。

《Tracking》
ヴィデオ・インスタレーション
2021年 ギャラリー58

作家コメント
私が素材として用いる「映像(ヴィデオ)」には、何かひとつの物語(ストーリー)があるわけではありません。さらには、「作品」を「撮影」或いは「記録」することも容易にしていません。「現在(いま)」を記録された像(イメージ)は、瞬く間もなく消えてゆき、鑑賞者の中で記憶されてゆきます。全ての事象は唯一無二であり、即興で出現し消えてゆく--。「時間」という軸は、私たちの技術 (テクノロジー)をもっても、未だに制御不能であり、巻き戻したり早送りすることは不可能なのです。作品の中で、何らかの形で鑑賞者と判り易く(ときに判り難く)対峙させているのはそのためです。

プロフィール
1981年 福岡県生まれ
2004-05年 Fachhochschule Hannover, Fachbereich Bildende Kunst 交換留学(ドイツ・ハノーファー)
2006年 広島市立大学大学院 芸術学研究科 博士前期課程修了

[個展]
2003年 Gallery P2(広島)
2005年 いづゝや(広島)
2008年 共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2009年 ギャラリー58
2009年 「2,592 Eyes」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2010年 「Delay」ギャラリー58
2011年 「Endless guinea pigs」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2012年 「Untitled (Delay Series)」ギャラリー58
2012年 「Layer」ギャラリーとわーる(福岡)
2013年 「Nest」ギャラリー58
2015年 「Lag Time Drawing」ギャラリー58/ギャラリーとわーる(福岡)
2017年 「Scramble」ギャラリー58/ギャラリーとわーる(福岡)
2020年 ギャラリーとわーる(福岡)
2021年「Tracking」ギャラリー58/アートスペース・テトラ(福岡)

[グループ展]
2004年 「アートプロジェクト“SPECTRO”」賀茂鶴酒造吉富蔵(広島)
2005年 「GEISHA」Stiftung Horizonte, Kunst & Kultur im Tschechischen Pavillon(ドイツ・ハノーファー)
2008年 「広島アートプロジェクト2008 “汽水域”/旧中2特別企画 “−ilha grande−/愛”」 旧日本銀行広島支店(広島)
2009年 「ブース・エキシビジョン2009」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2010年 「有田現代アートガーデンプレイス2010/ARITA-mobile〜場所を紐解く方法論として〜」炎の博記念堂(佐賀)
2010年 「“NOT FOR SALE”−プライスレスな10日間」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2010年 「ブース・エキシビジョン2010」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2011年 「first decade」共同アトリエ・3号倉庫 Studio & Exhibition Space(福岡)
2011年 「WATAGATA Arts Festival 2011/釜山go-between福岡」福岡アジア美術館(福岡)
2011年 「福岡インディペンデント映画祭2011」福岡アジア美術館(福岡)
2022年 「Square展[30×30cmの正方形展]」ギャラリー58


西日本新聞 2022年8月4日(木) 朝刊
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/967529/


2021年の個展
2017年の個展
2015年の個展
2013年の個展
2012年の個展
2010年の個展
2009年の個展
作家HP